選り好み

佐久間と関係のない話ばかり、日記ではありません

兎に角、速く、早く 【上】

兎に角、速く、早く

 

(あったかい・・・)

ベッドの中、まだ青白い空が窓から見える。

窓に手を伸ばそうと思ったけれど、ドアをノックする音が聞こえたから急いで其の手を引っ込めた。

「入りますよ」

ドアノブがガチャリと鳴って、ドアが開く。

「  、起きなさい」

早朝に何

「  、  、お客様がお見えです」

客なんてアタシにくるはずないじゃん

「お客様を御待たせすることはなりません」

しつこいなぁ

「  ?」

(~っもう!)

「誰?お客様って誰なの?アタシに訪ね人なんて」

「町からのお客様よ、早く御立会いなさい。」

なんだっていうの、こんな朝早くに。

「早くベッドから出てらっしゃいよ?玄関で待っていますからね」

「・・・はぁい・・・」

ドアを開けたまま、母さんは部屋を出て行った。

いや、母さんじゃあない。

アタシは狼だ。

銀色の、髪の色と似た色。

義母さんは人間だ。

この森の奥、義母さんに買われて暮らしている。

義母さんは優しい。

幸せな日々でもあるけど、アタシは狼だ。

皆と違う、だからお客様なんて信じられない。

半分人間で半分狼なアタシに友人なんていない。

友達はいるけれど。

「  !早くきなさい」

ベッドから足を下ろして、裸足のまま、スリッパも履かないで部屋から出る。

秋だというのに、朝は寒い。

(こんな寒い中よくこんな森の奥まで訪ねてこれるね)

廊下を超えて、玄関をそっと覗く。

「・・・どちら様でしょうか」

どうやら訪問客は男性のようだ。

「  、さんですか?」

「はい・・・私です。」

彼は私に一枚の紙を差し出した。

「・・・?」

白い、封筒?

「これは?」

男性は何も答えず、一礼してドアを開けて出て行ってしまった。

意味が分からない。

こんな早朝に訪問して、ただ紙を渡して、質問にも答えず出て行ってしまった。

その場で立ったまま、何も理解も出来ないまま、手元の白い封筒を見つめる。

「なんだっていうの・・・」

アタシが狼だから、いたずらの手紙でもよこしたの?

「  ?」

背後から義母さんの声が私の名前を呼ぶ。

「お客様は御帰りになったの?」

「・・・この手紙だけアタシに渡して帰ってった。」

どれ、と義母さんはその封筒を受け取ると直ぐに手をかけた。

・・・期待なんてしてないから・・・・

「なんて書いてあるの」

義母さんが口元をおさえている。

「・・・これ・・・あんたと籍をいれたいって」

「!?」

アタシの、人間とは違った耳がピン、とたった。

だって私は人間じゃあないのに

違うのに、そんな、いたずらにしても酷すぎる。

「いたずらじゃない!!こんなの、義母さん!」

涙が出る。

ふざけないでよ、馬鹿いわないでよう。

 

 

 

 

 

 

兎に角、速く、早く【上】end